またもや、おじいちゃんが「かんしゃく」を起こしてしまった。おじいちゃんは、ほとんど寝たきりに近く、言葉も不自由である。それお何とか自宅で介護しているのだが、一番困るのは「かんしゃく」である。何も心当たりのないときに、おじいちゃんが急に怒り出し、動きにくい手を振りまわして、ベットの横においてあるコップなどを床に落としてしまうのである。
この日も久しぶりに訪ねてきた娘が、何かと世話をしていたが、「おじいちゃん、おむつをかえてあげましょうか」と言った途端に、老人のかんしゃくが爆発したのである。
別に怒られるようなことを何もしていないのに、おじいちゃんは困りものだ。
入院させた方がいいのではないか、などという家族の話し合いにまで発展しそうになった。
しかし老人はやたらに怒っているのではない。子どもたちが「・・・・・・してあげる」と何となく恩着せがましく言うのがたまらないのだ。
「お水もってきましたよ」と言えばいいのに、なぜ「お水もってきてあげましたよ」と言うのか。自分はかって子どもたちに対して、金をもうけてきてやったよとか、育ててあげたよ、などと言ったことがあるだろうか。それに今なぜ、この自分に対して恩着せがましく言うのか、と怒りが爆発するのだ。
河合隼雄 老いのみちより